施工事例

御影コンサートハウス

御影コンサートハウス

設計監理:seki.design
Photo:Akiyoshi Fukuzawa

地域   :

神戸市

種類   :

家族構成 :

依頼の理由:

担当者からのコメント

神戸市御影、コンサートサロンとしてもつかえる空間を中心に構成した、住まいの建て替え計画です。

大正期以降に鉄道会社によって開発がおこなわれた阪神間は、当時日本経済の中心として黄金期を迎えていた商都大阪/港都神戸の経済人や文化人がこぞって移住した地域です。往時は彼らによってサロン文化が花開き、西洋の先進的な思想と日本の美意識が融合した「阪神間モダニズム」の舞台ともなりました。港をのぞむ山手の閑静で緑豊かな美しい周辺のまちなみは、関西屈指の高級住宅地として、そのおもかげをいまなお継承しています。

今回の住まいの建て替えは、そんな地域の〈記憶〉、そしてこの場所で家族が奏でてきた〈記憶〉の地層へ、新たにクライアントの〈未来への想い〉を折り重ねていくためのプロジェクトとなっています。音楽家として育ったお子様たちをはじめとした、未来を担う若いアーティストを応援できる場ともなるように、ということがクライアントからの要望でした。

記憶の継承と再生。かつて人々が集い、つくりあげていった時代の空気。かつてここにあった家で、吹き抜けホールを介し家中を満たしていた美しい旋律。それらの記憶の断片を手繰り寄せ、未来へと繋ぐ新しい空間をめざしたいと考えました。

そこで設計の出発点としたのは、この土地の歴史を刻んできた石垣による高低差と、これまでの建物配置です。駅からの動線を考えて、南側道路に面した既存の門扉と駐車場の位置は、変わらぬメインゲートとして踏襲すべき。また地形を大きく変えず、その高低差を極力活かした配置計画とすることも、環境や経済性において合理的であると同時に、土地の記憶からはじめるにあたってふさわしい姿勢であると考えました。この構成をベースに、若い音楽家のためのホールが、文化的シンボルとしてまちへ開かれながら、一方でふだんは家族の気配をたいせつに護るものとなるよう、その佇まいと配置を精緻に検証しました。

44帖の広大なLDKは、ひとたび演奏会ともなれば、2台のグランドピアノと30席超の客席を擁する、純粋な「コンサートサロン」へと鮮やかに変貌します。テレビやキッチンなどの日常の要素は、綿密に計画された大容量の収納やスクリーンの奥へ。訪れたゲストが、ここが日々の暮らしの場であると気兼ねすることなく、非日常の空間での音楽を楽しむことができるよう留意しました。

空間の中心には、最大7メートルの高さを誇る「楕円の大きな吹き抜け」を配しています。古い住まいの記憶を引き継ぐものでもあるこの吹き抜けは、御影コンサートハウスのシンボルであり、2階の特等席から1階の演奏を見下ろすことができるという仕掛けにもなっています。奏者の息遣いや音の輪郭が、減退なくそのままの強度で押し寄せる1階、吹き抜けを介して天井で反射する豊かな残響につつまれる2階──これは、プライベートなコンサートサロンならではの贅沢な体験となるでしょう。

全体のデザインコードとしては、かつての阪神間モダニズムが有していた重厚で美しい装飾性や知的な空気感を抽出し、現代的に再構築しました。壁のブラケット照明なども今回オリジナルにデザイン。空間全体に品格を与えています。

2台のグランドピアノが並ぶ舞台の背景には、幅5mにわたる大開口ごしに、手入れの行き届いた広い庭が広がります。それを額縁におさめるように両袖に配した石積みの壁は、視覚的な美しさだけではなく、機能性も兼ね備えたもの。一枚一枚丁寧に切り出された石が、一流の職人によって積み上げられたこの壁は、その自然な凹凸によって音が程よく乱反射し、このコンサートサロンの上質で豊かな音響に寄与しています。

竣工後のこけら落とし演奏会は、ご長女とご長男による2台のグランドピアノとフルートのアンサンブル。響きわたる音色と、集った観客の笑顔──御影の〈記憶〉に、新たな音が折り重なっていきます。

施行中写真

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